2018年6月の園長通信より、その一部をお届けします。
「ことば」の世界
ある朝、教室でお仕事の提示をしていると、隣のクラスからW君がやって来て、ペタリと、私の胸に紙の札を貼ってくれました。何かしら?とみると、短冊形の白い紙に「えんちょうせんせい」とお名前が書いてあります。「あ、小さいバスケットのお仕事を始めたんだな」と知り、思わず顔がほころびました。
このお仕事は、「話しことば」から「書きことば」、そして、「文法」へと系統づけられている言語教育の中では、「書きことば」のお仕事に属しています。「書きことば」は、「書き方」から「読み方」へと段階づけられており、「小さいバスケット」は、その「読み方」の中でも、「単語を読む」お仕事です。
モンテッソーリ教育では、「読み方」の初めのお仕事が「単語を読む」となっています。「文字を読む」ではありません。言葉を読んで、その意味を理解することが「読む」ことだと考えているからです。
今日は、教室で子どもたちが教室で取り組んでいる「言語教育」のお仕事がどんなものなのか、ほんの少し、のぞいてみたいと思います。
「お仕事」の小窓 第6回
① 小さいバスケット(1)(2)
小さいバスケット(1)には、教室の中にある物のうち、持ち運びができる物の名称が書かれたカードが入っており、子どもにカードを引かせます。子どもは、引いたカードに書かれた名称を読み上げてから、その品物を探して持って来ます。
「先生が、持って来てほしい物のお名前を書くから、持って来てくれる?」
「うん!」
「では、初めにこれを持って来て下さい。」
「?」
「何て書いてあるかな?」
「え・ん・ぴ・つ。えんぴつ」
「そう。鉛筆、持って来てくれますか?」
「はい。持って来たよ」
「ありがとう」
持って来てくれたものが、本当に紙に書いてあったものか、先生と子どもは一緒に確かめます。「これは何と書いてある?」「えんぴつ」「これは何?」「えんぴつ」「同じだね」…。
次に、小さいバスケット(2)。
「じゃあ今度は、これを持って来てくれますか?」「ど・あ?」「そう。どあ。どあを持って来れるかしら?」「ううん。持ってこれない。」「そうね。では、テープで、貼って来て下さい」
「持って来れないものは、お名前を貼るようにしましょう。他に、なにがありますか?」「ゆか!」「かべ!」
…こんな風に、色々なものに、名前を貼っていきます。私にお名前を貼りに来てくれたのは、きっと、それが発展して、「あ、〇〇ちゃんもいる」「〇〇先生も」と、子どもたちが自分でお友達や、先生のお名前を書いて貼り始めたのでしょう。テキスト通りのやり方からは、はみ出しているかも知れないけれど、「単語を読む、文字で意志が伝えられることに気づく、持ち運びのできないものにも、名前があることを知る」など、この「小さいバスケット」のお仕事の目的は、十分に達成されています。
そうです。「気づく」ことこそ、子どもたちが知的な刺激を受け、喜びを感じる貴重な瞬間ではないでしょうか。言語教育を通しても、この「気づき」がたくさんある教室になって行って欲しいと願います。
② 年少々さんから年少さんを対象に、集団提示で行った「実物合わせ」と「絵カード合わせ」です。
「実物合わせ」では、「やさい」の絵カードと、「くだもの」の絵カード、そして、果物・野菜のおもちゃを使い、実物に見立てたりんごやイチゴと絵カードを合わせてみました。
続けて、「絵カード合わせ」も行いました。絵のみ、絵と文字、文字のみという3種類のカードを使い、絵と絵、文字と文字を一致させていくお仕事です。何となく知っている言葉を、絵と絵を合わせて確かめ、文字と一致させながら、語彙を豊かにしていきます。教室には、「いちご!」「なす!」などと、元気な声が響いていました。